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  どこまでも続く灰色……

  カチャンッカチャンッカチャンッカチャンッ。
  雲とスモッグが一面を覆う空の下、緑色の甲冑を纏った兵士達が
  祭典の為に駆り出された楽士達を押しのけ続々と広場に集結する。

――なんとしても撃ち落せ! ええい、いちいち許可など求めるなっ!!


  広場の中央、大きく組まれた祭壇の上には煌びやかな玉座が設けられていた。
  だがそれはすでに朽ち果て、祭典の典麗さを物語るのは僅かに残った破片のみ。
  その傍らに、天を仰ぎ横たわる人物――彼こそがこの式典の主である。

  赤のビロード地にきらびやかな装飾を施されたマント、
  いくつもの宝石をちりばめたローブ、
  そして右肩周りを除く上半身の大半を消失し、
  残された身体の断面からプスプスと煙を立ち上らせる……
  死体。


  カチッ、カチカチッ。
  新たに広場へとなだれ込んできた兵士達が、上空目がけ一斉に銃を構える。
  空には新造されて間もない空中戦艦、式典に彩りを添える曲芸飛行用の戦闘機……
  そして、それらの中をすさまじい速さで縦横無尽に飛び回る発光体。

「撃てぇっ!!」

  その発光体の正体――それこそがこの凶事を引き起こした張本人にして、
  この式典の主役……実験の唯一の成功体として王より称号を賜るはずであった少女、
  アサギであった。

                            ■

(おのれアサギ! 父さんより受けた恩義に唾するとは!)

  品のよさそうな上着と半ズボンを身にまとい、ほっそりとしているが
  いかにも健康そうな足を覗かせている少年……
  だが上空の発光体をにらみつけるその顔には、すさまじいまでの怒りが現れていた。

「ぐすっ、お父さん……ひっく」

  そして王の死体にすがりつき泣きじゃくるドレス姿の少女。


「おい! ガルーダローブはまだ用意出来ないのか!」

  少年が右肩から血を流す無精髭の男へと怒号を飛ばす。

「恐れながら……ぐっ、申し上げます……アレは未だ実験段階の物故、
王子御自ら御使いになられるのはいささか……」
「うるさい! いいから持ってこい!」

  カン高い叫び声にも似た命令に観念したのか、駆け足で城内へと向かっていく。

(ガルーダローブさえあれば……僕だって……!!)


「ツバメ……」

  泣きじゃくっていた少女が、涙も乾かぬ瞳で不安げに見つめる。

「お願い……危ない真似は……」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

  さっきまでとはうって変わり、穏やかな表情でツバメが答える。

「ガルーダローブが……父さんが作り出した『輝羽』が、負けるはずない!」

  そして空の発光体へと再度鋭い視線を向ける。
  姉、ジャノメも同様に視線を……哀しげな視線を空へと向ける。

(アサギ……どうしちゃったの、何でこんな事に……?)

  ――ジャノメの、人のそれとは明らかに異なる輝きを放つ右目から涙がこぼれる。
  そして同様の輝きを放つツバメの左目に激しい怒りが灯る。

                            ■

  カッカッカッカッ。
  男は右肩からのおびただしい流血にも構わず、足早に研究施設に向かう。
  正装の上からも筋肉の隆起が見て取れる。広い背中、短く切りそろえられたグレーの髪、無精髭、右目を覆う眼帯。
  軍人と言うよりも荒くれ者……そんな風格を彼は漂わせていた。

(目の前で陛下をむざむざと屠られ、この上王子御自らを出陣させるなど……!!)

  男は自分のふがいなさに激しく怒りを感じていた。


  ――あの時もそうだった。

  数年前……ツバメとジャノメが実験を受けると言い出した時、
  彼は2人を押し留め代わりに自らが被験体となった。
  そして右目への融合実験……だが、実験は失敗に終わり彼は右目を失った。
  結局ツバメの左目とジャノメの右目にそれは融合移植され、その成功を皮切りに
  王族でありながら被験体としての道を歩む事となった。


(畜生! 畜生っ!! あの時俺で成功していればっっ!!)

  怒りのせいかすでに右半身の感覚が無い。右腕もどす黒く変色している。

「お前らぁっ!!」

  突然の怒号に研究員達が振り向く。

「マ、マダラ特佐っ、 そのお怪我は一体……」
「そんな事より! 王子の下にガルーダローブをお持ちするのだっ!!」

  ふと、マダラの目に巨大な鉄塊が飛び込んだ。

――そう言えば、超大型の銃が発掘されたとか言ってたな。

「おい、俺の右半身……もう使い物にはならないのだろ?」

  研究員が体を支えながら、焼けただれ腕もちぎれ落ちようとしている右半身に目をやる。

「早急に治療を施せば、もしかし……」
「そんな暇があるならガルーダローブをお持ちしろっ!!」

  研究員の言葉を遮り再度怒号を飛ばす。

「し、しかしそれでは特佐のお体が……」
「構わん。俺とて機械化部隊将校、自ら機械の体と化すのも一興ってヤツだ」

  マダラの視界の端に搬送されていくガルーダローブが映る。

「アレは……大丈夫なんだろうな」
「……通常範囲内の運用でしたら問題ありません」
「そうか……」

  その言葉に安心したのか、不意に睡魔がマダラを襲う。

「一つ頼みがある……」
「は、何なりと」

  血にまみれ、震える左手で発掘された超大型銃を指差す。

「この銃を、持つ事の出来る……巨大な腕を……作って……く……れ……」

――こんな時に不謹慎だが、ワクワクするぜ……
あんなバケモノ銃を振り回せるなんてよぉ……

  そして、マダラは左目を閉じた。

                            ■

  ズガッ、黒衣を纏った少年の手から光の矢が放たれた。
  そしてそれに付き従うように光弾を撃ち込む、碧色の光に包まれた黒衣の少女の幻影達。
  ドゴォォォォン……
  式典用に装飾が施されているものの、空中戦艦として十分に機能しているはずのそれが
  いともたやすく撃墜される。

「あ~あ、面倒な事になっちゃったなぁ」

  緩慢な時の流れの中、彼はクルクルっとカールした薄紫色の髪を
  指先でいじりながら宙に浮かんでいた。

「王様さえ殺しちゃえばさっさと逃げ出せるかな~って思ったんだけどなぁ」

(そんな事はどうでもいいわよ!!)
  少年の頭の中で声が響いた。

(さっさと全部ぶっ潰しちゃいなさいよっ!!)
「そんな事言われてもぉ~」

  少女の幻影が一人、また一人と消えていく。

「僕、そろそろ疲れてきちゃったよぉ」
(何勝手な事言ってんのよ、バカ聖霊!)

  そしてゆるやかだった時間の流れが徐々に加速しだし、
  本来の速さを追い越し超スピードで少年の周りを流れ始めた。
  ババババババッ、ヒュゥゥゥゥッ!
  数倍にも加速されたエネルギー弾が少年目がけて飛んでくる。

「もぅ~!」

  残された力を振り絞り、碧色に輝く力場を展開させる。

「それじゃ、僕そろそろ休むから後はお願いね。アサギ」
(おい、こら! この状態でどうしろって言うのよ!!)
「あと2回ぐらいはこのバリア張れると思うから、それでなんとか頑張ってよ」
(ちょ、待て! おいっ!!)

  パシュ……

  バリアが消え、本来の時間の流れに戻ったねずみ色の空に背中が丸々隠れる程の
  豊かな髪をたくわえた――先ほどの幻影達と同じ姿の少女が浮かんでいた。

「はぁ~」

  ため息をつき、指先でメガネをクイッと持ち上げる。

(ほら頑張って、君なら出来るよ)

  今度は少年の幻影がアサギの周りに現れた。

「またいい加減な事言って……」

  少女の背中から、蝶の羽根に似た虹色に輝く羽根が広がる。

「あっちの方角でよかったわね……あの港町」
(そうだよぉ~)

  少女……アサギは羽根を大きく羽ばたかせ、南の空へ向かって全速力で飛んだ。

(あの人達なら……)
(あの人達ならきっと力になってくれるから……僕達と同じ力を持った、あの人達なら……)

  ビュオォォォッ。

  薄紫色の髪が、黒いスカートが風になびく。

「待っててねみんな、必ず助けてあげるから!!」